新 刊 案 内
 C M
「紅薔薇様の長い夜」冒頭 ご紹介

-------------------------------------------------

 夜の冷えた空気を追い払うかのように、爽やかな日差しが窓辺に降り注ぐ。
鳥のさえずりが響く、広大な手入れの行き届いた華麗な庭園を、蓉子はぼんやりと眺めていた。
 やはり、睡眠不足なのだろうか。起き抜けに暖かいと感じたのは、単に寝床の温もりが纏い
ついていたに過ぎないのか、まだ暖まりきらぬ朝の冷気に身の引き締まる様な感覚を覚えた。
気休めかもしれないが、外れていた襟元のボタンを一つ、留める。
 目が少し腫れぼったい。そっと目元を撫でて、ため息をついた。
もぅ・・聖があんな事するから・・・全然寝られなかったじゃない。
 昨夜の事を思い出すと、にわかに頬が熱くなるのを感じた。

 物思いにふける蓉子の視界に突如しなやかな腕が現れ、驚くまもなく後ろから素早く体を
抱きしめた。パジャマ越しに豊かな双丘が背中に押し付けられる。
温もりと柔らかさが肌寒さを感じ始めていた体に心地よかった。

 抱き付き主は蓉子の耳元をくすぐるかのように囁く。

「おはよう、蓉子。夕べは可愛かったよ。」

聖の発した言葉に再度蓉子の頬がかっと熱くなった。羞恥と怒りがごちゃまぜに湧きあがり、
体に震えが生じた。
 抱きすくめていた腕内の蓉子に発した異変を感じた聖の腕がふと緩む。
巧みに腕の中で身を翻した蓉子は、口付けもあわやの距離で聖と向かい合った。
 今まで見せた事のない、思いつめた様な潤んだ眼差しを向けられ、軽い冗談のつもりで抱き
付いた聖には次の言葉が思い浮かばない。
つかの間、見つめあった後、蓉子は意を決したかのように口を開いた。

「・・・夕べした事・・・覚えてる?」
----------------------------------------------------

Back to Menu